サブスクリプションにおける重要指標ARRとは? 意味や計算方法を解説

インターネットのクラウドを通してソフトウェアを提供するSaaSビジネスで特に注視される指標に「ARR」があります。SaaSビジネス、中でもサブスクリプションビジネスではこの数値がサービスの成長性を測る指標として重要視されています。今回はARRやMRRについて基本的な部分から詳しく解説していきます。

サブスクリプションビジネスにおけるARR(年間経常収益)とは

「ARR(Annual Recurring Revenue)」とは「年間経常収支」のことで、毎年決まって得られる1年間分の収益や売り上げを指しています。通常ARRは、初期費用やコンサルティング費用などの一時的に発生する収入は除外して算出します。
サブスクリプションビジネスでは、事業の「成長性」「効率性」に加え、どの程度、顧客がサービスをリピートするかという「顧客ロイヤルティ」の3つの観点で運営を見ていくことが非常に大切です。この3つのうち「成長性」を測るためのKPI(重要経営指標)となるのがARRです。
ARRの推移からサービスを利用する顧客の増減を読み取り、サービスの売り上げ予測を行うことができることから、サブスクリプション方式で収益を上げるSaaSビジネスが全盛の現代で、重要なKPIとして大きな注目を浴びるようになりました。とりわけ、スタートアップ段階のサブスクリプションビジネスのゆくえを測るにあたっては最も信頼できる指標とされています。

なお、ソフトウェアのパッケージ販売のように製品を売却し、売却した対価として利益を上げる売り切り型のビジネスモデルでは、売り上げの全てを「新規顧客」から上げる必要があるため、ARRの数値を使用することはありません。

ARRとMRRの違い

ここで確認しておきたいのが「ARR」と「MRR」との違いです。ARRと似た指標に、経常収益を月単位で見るMRR(月間経常収益、Monthly Recurring Revenue)という指標があります。このMRRの数値を12倍して算出される数値がARRの数値となります。
一般的には音楽配信や動画配信サービスなど、月単位で契約することが多く毎月の契約や解約が一定数発生しやすい個人向けのビジネスは月単位のMRRを使い、年間契約が多い企業向けのSaaSを提供するビジネスではARRを用いることが多くなっています。

本体販売後にインクカートリッジ販売で収益を上げるプリンターなどのように、製品購入後に継続してサービスを利用してもらうことを前提にしているビジネスを「リカーリングビジネス」と呼びます。リカーリングビジネスの場合は、インクカートリッジ購入費など毎月の「利用料」は月によって差があります。月ごとのMRRの数値にばらつきがある場合はARRを算出する基準にする月をどの月にするかによって、算出されるARRの数値が大きく異なることになりますので注意が必要です。

ARRの計算方法

では、ARRの数値はどのようにして求めたらよいでしょうか。
ARRを算出するにはまずMRRの値を算出します。そのMRRの数値を12倍した数値がARRの数値となります。
MRRを細かく分けますと

(A)当月の新規顧客から得られるMRR(New MRR)
(B)前月からプランがアップグレードされたことで生じた追加のMRR(Expansion MRR)
(C)前月からプランがダウングレードされたことで生じた損失分のMRR(Downgrade MRR)
(D)当月に解約した顧客の損失分のMRR(Churn MRR)

の4種類の要素に分けられます。これら4種類の要素の数値を元にMRRを計算します。 計算式は

当月MRR = 前月のMRR+{(A)+(B)-(C)-(D)}

となります。

レギュラープラン:月額1,000円、ライトプラン:月額500円、プレミアムプラン:月額1,500円のサブスクリプション型課金サービスを提供している場合のMRRを計算してみましょう。

MRRの各要素を

  • 計算対象月前月のMRRが10万円
  • 計算対象月の新規レギュラープラン契約数が20契約
  • 計算対象月にレギュラープランからプレミアムプランにアップグレードした契約が10契約
  • 計算対象月にレギュラープランからライトプランにダウングレードした契約が10契約
  • サービスを解約し、計算対象月から支払いがなくなった契約が2契約

  • とした場合

    A=1,000円×20契約=2万円
    B=10契約×(1,500-1,000)=5,000円
    C=10契約×(1,000-500)=5,000円
    D=2契約×1,000円=2,000円

    となり

    10万円+(2万円+5,000円-5,000円-2,000円)で、MRRは11万8,000円ということになります。
    ここで求めたMRRの数値を基準にARRを算出するとしたら11万8,000円×12=141万6,000円となります。つまりARRは141万6,000円ということです。

    ARRを増加させる要因

    それでは、ARRを増やす要因にはどういったものがあるのでしょうか。
    ARRはMRRから算出される数値であるため、MRRを増加させる要因を分析すればARRを増加させる要因も分かります。
    MRRを増加させる要因には「新規顧客開拓による契約増加」「既存の顧客が金額の高いプランに変更するアップグレード(アップセル)」「既存顧客のオプション追加購入(クロスセル)」があります。つまり、売り上げを伸ばすためには新規顧客開拓のほかにアップセルやクロスセルを増やすための施策も講じる必要があります。また、一度サービスを解約した元顧客に再度アプローチしてサービス利用の再開を促すことも有効な手立てです。もちろん、毎月の利用料金を値上げすれば当面のMRRの数値も増加しやすくなりますが、価格の上昇は顧客の満足度を下げて解約を招くおそれもあるため、価格の改定は慎重に検討を重ねる必要があります。

    ARRを減少させる要因

    同様に、ARRを減少させる要因もMRRを分析することで明らかになります。MRRの主な減少要因は、既存顧客の退会や解約、既存顧客がサービスをダウングレードするダウンセルの増加の2つです。
    この場合、顧客の声を集めサポートを強化し、顧客満足度を改善して解約を減らし、サービスの利用頻度を上げるため顧客に魅力的なプランやキャンペーンを検討するなどの施策で経常収益の改善を目指すことになります。
    また、ARRを分析する場合には、ARRの減少だけではなくARRの増減が見られない場合も注意しておく必要があります。ARRが増加も減少もしない場合、せっかく新規顧客を獲得しても同じペースで既存の顧客を失っていたり、顧客がアップグレードを継続せずすぐにダウングレードしていたりするなどの原因が考えられます。こういった場合も、ARRが減少している場合と同様に何らかの施策をとることが有効である場合もあります。

    まとめ

    一般的なビジネスでは売上高が指標として用いられますが、継続してサービスを利用してもらうSaaSビジネス、特にサブスクリプションビジネスと呼ばれる形態ではARRが重要な経営指標として活用されています。ARR、MRRを把握することで、事前に売り上げの予測が立てられるようになり、経営上の計画を立てやすくなるメリットがありますので、ぜひ活用してみましょう。